きたユニ2022年2月号

増加する個人事業主の「労働者性」を認めない社会でいいのか!

若者に人気の一方で劣悪な労働環境
車やバイクで運送を行う「貨物軽自動車運送事業者」の数は2017年以降増加し続けていますが、その多くは個人事業主です。契約先は宅配代行サービス「ウーバーイーツ」やアマゾンの下請け業者などを始め多数あります。その中でインターネットを通じて単発の仕事を請け負うのが「ギグワーク」ですが、配達/運転/家事の代行など色々な職種があります。これらは仕事の場所、時間の自由度が高く、自分のペースを守って働きたい若者には人気があるようです。
しかしその一方で、社会保険、労災保険の適用がなく、中には1日の平均労働時間が実は12時間以上であったり、一方的な運賃の減額など劣悪な労働環境のケースなども指摘されています。例えば、アマゾンから直接委託を受ける「アマゾンフレックス」で覚えのない未配達を理由に契約を解除されたという報道がありました。また、ウーバーイーツの自転車配達中の衝突死亡事故の裁判で、悪天候などの条件下での「クエスト」というゲーム感覚の成果報酬制度が危険運転の背景にある、と検察が警告しました。「ウーバーイーツユニオン」によると、ある期間の事故15件のうち11件が「クエスト中」だったそうです。
個人事業主は労働時間などを定める労働基準法の適用外ですが、労働者であるかどうかは、契約形式よりも働いている実態を重視して判断されます。現状では個人事業主は決して契約先と対等ではなく、殆どの場合、契約先の指示通りに働かなければならず、何か問題が起きれば個人事業主の「自己責任」とされるのが常です。現在の「労働者性」の判断基準を見直し、もっと幅広く労働者と認めるべきでしょう。
人間としての「労働者性」を取り戻す
海外ではEU欧州委員会が、ギグワーカーの権利保護に向け、一定の条件下でギグワーカーを「従業員」同等に扱い、最低賃金、有給休暇、年金等の保障を企業側に義務付ける法案を公表しました。法制化にはまだ段階がありますが、日本ではこうした方向を歓迎する社会的な雰囲気すら不足しています。
働く者は皆生活のために働いていますが、経営者と同じように自らを「商品」とみなし「商品」として扱う必要もないのは自明のことです。しかし今の世の中、即時的な商品価値のみを評価し、安全性や将来的な保障は二の次とする考え方が圧倒的に多数派です。
「労働者性」を法的な枠組みの中で個別毎に見直すというだけではなく、働く者が「商品」としてではない人間としての「労働者性」を取り戻すことの正当性を社会に強く働きかけてゆくことも必要でしょう。

【活動報告】

『関西仕事づくりセンター』より
北大阪ユニオンは専従(ユニオンからの収入で生活して、ユニオンの仕事を専門にする人)の執行委員は1人もいません。つまり委員長をも含めたすべての執行委員が自分で仕事をして、その合間に北大阪ユニオンの活動をしているわけです。かくいう私も色々と仕事をしているわけですが、その一つが『関西仕事づくりセンター』での仕事です。
『関西仕事づくりセンター』は2008年に設立されたNPO法人で、その発足には北大阪ユニオンも深く関わっていたそうです。設立当初の目的は、労働者が働ける職場を自分たち自身で作ろうということだったそうです。それから10年以上経ち、今では生活において様々な困難を抱える人たち(障害を持った人、学校社会からはじかれた少年少女、外国籍の人、大変な家庭環境で育った人などなど)が集まって、共同で仕事をする場へと変化しました。私もその中で、主に豊中方面の植木仕事と便利仕事(引越しや不用品処分)を、同年代の仲間と一緒にやっています。たまに土埃にまみれた格好で事務所にいるのはそのためです。
北大阪ユニオンとしては、『関西仕事づくりセンター』が不当解雇などにあった組合員が当面の生活費を得ることができる場所として使うことができたら一番いいのですが、植木仕事は専門性が必要で、なおかつ季節仕事であり、便利仕事はいつ依頼が入るか分からない状態で、残念ながらまったくアテにできないのが現状です。雇われて働く人の集団である北大阪ユニオンと、雇う―雇われるの関係とは違うやり方で働く人の集団である『関西仕事づくりセンター』がどのように連携していけるのか、今後とも考えていきたいと思っています。とりあえず、組合員の皆さん、庭木の剪定や不用品処分の仕事があれば、ぜひ声をかけてくださーい!(鈴木)

【労働相談から】

“助成金ビジネス”での整理解雇…
大阪市内の障害者事業所で働くMさん。いわゆる就Aなので雇用契約。グループ会社も含めてA型・B型事業所、放課後児童デイなどを多数経営している事業者だ。業績不振を理由に突然事業所を閉鎖する旨の通告があり、会社から別の仕事の提示はあったものの、全くの畑違いの分野なので、ほとんどの人が退職を選択。しかもその際、会社は会社都合での離職票発行を拒否し、自己都合で処理。実は、昨年末に別の事業所でも全く同様の事態が起こっていた。
聞けばこの会社、「個別支援計画を作成し、6カ月ごとに見直し」といった、障害者支援事業所としてのきちんとした仕事をほとんどしていない様子で、障害福祉関連の自立支援給付金や、ハローワークが窓口となる特定求職者雇用開発助成金(特開金)などが目当ての“助成金ビジネス”では、と疑われる。
事実上の整理解雇で「本人都合退職」での処理にこだわるのも、恐らく助成金の支給要件が絡んでいるのだろう。Mさん自身も、また他のメンバーも、精神障害または知的障害を抱えた人たちで、メンタル面での浮き沈みが激しく、精神的ストレスが体調と直結しやすいなど、難しさもあり、慎重に、継続的に相談に乗っていこうと考えている。           (木)

追悼 里 剛(サトツヨシ)君

北合同再建一番目の職場分会の兄貴格
里君が2月21日に亡くなった。彼との出会いは50年近く前。松栄電機工業という、松下電器産業(現パナソニック)の下請け工場がたくさん存在する豊中庄内地域の工場でのことだ。ここは地方出の若い工員さんの養成工場(そのワリにはまじめに養成しない使い捨て工場)だった。確か里君も沖縄出身だと記憶している。北合同(北大阪ユニオン)の再建一番目の職場分会で、彼はそこの兄貴格。仕事終了後の会社との団体交渉では分会員10名程が集まり、会社とやり合った。その後団交総括と称して、庄内駅前の安飲み屋でオダを上げていたのを思い出す。
松栄電機退社後、1976年「よつ葉共同購入会」設立当初からよつ葉の活動に参加、能勢農場建設にも奮闘した。その後、紆余曲折を経て十数年前、能勢食肉センターに「復帰」、能勢の地域活動を支えてきた。
様々な活動に参加しつつも、彼の原点は北合同であり、執行委員として、後には特別執行委員として活動に参加し支え続けてくれた。また、ニュースにマンガを書き、旗開きでは漫才を披露し、将棋大会に参加し、映画に一家言ある「文化人」でもあった。少し早いのではなかろうかと思われる、享年68才であった。ご冥福を祈ります。(元執行委員長 中川幹雄)

【コラム 労働組合を作るわけ】

労働組合活動にヤクザ=暴力団が公然と登場②
17~18年前のある日、男性労働者が高槻事務所に訪ねてきた。相談者は大阪市城東区にある会社でトラック運転手として働いていた。その会社は建築現場に足場器材をリースするもので、彼は毎日倉庫から各建築現場へ器材一式を運搬する仕事だ。器材が用済みになれば引き取り会社の倉庫に収納する作業をしていた、という。早朝から夜遅くまで働いているが、残業代など出たことはない。こんなことって良いのでしょうか、と。
数日後、本人を伴い会社へ行った(本人は会社を見限り辞めていた)。厳密に計算した残業代は百数十万円にもなっていた。裁判を前提に考えていたので、付加給付(倍額)も課した要求書だった。会社事務所と倉庫の一部を兼ねた建物は、建築器材などで雑然としていた。事務員しか居らず、社長は不在だった。
約束の日時に回答を待ったがナシのツブテ。電話を入れるも社長の声すら聞けない。これではラチがあかない。そこで今までのいきさつを書いたビラを作り、会社周辺にポストイン。この反響は大きく、ユニオンに対する励ましのものばかり。「ガンバレよ」「朝から晩までウルさい会社だ」「近所めいわくだけの会社だ」などなど。この反響に挑戦するかのように、ヤクザが登場する。 -続く- (元執行委員長 中川幹雄)

【闘いの現場から】

《セレブリックス》労働条件変更を機に離職者が続出
小売店を巡回して化粧品の販売・管理。年末に2回目の面談を行ったが、自宅から遠方の巡回ルート(東大阪や八尾市)に変更した点について、会社はルート変更の過程に問題はなかったと回答してきた。
しかし年が明けてから、N組合員が担当していた高槻市や隣の茨木市で会社が求人を出していたことが判明。募集サイトには「自宅から近隣のエリアで働いてもらいます」と謳っており、N組合員を無視、コケにした驚きの所業である。
すぐさま団交申し入れを行い、N組合員を高槻市の巡回ルートに戻すよう要求した。なんでも昨年11月の労働条件の変更があってから離職者が続出、人員不足に陥り、業者委託に頼っているらしい。これを機に、労働環境の改善に取り組まなければ、現場がもたなくなるのではないか。(高)

《大阪ガスビジネスクリエイト(OGBC)》大阪ガス本体への公開質問状も検討
大阪ガスグループの管理部門の会社。特にある部門でずさんな業務管理により長時間労働が常態化している。2名の組合員のうち1名は過去に短期間の休職、もう1名は現在三度目の休職中。私傷病での単なる欠勤の扱いとされているため、給与・賞与などで大きなマイナスを受けている。業務起因性を認め、不利益を回復するとともに、今後の業務遂行体制の改善と労務管理の適正化を要求。
Mさんは長時間労働と若干の不払い残業代(タイムカード打刻後や自宅での作業)で、Uさんは療養と休業での労災をすでに申請、労基署の調査も始まっている。1月25日に、まずMさんの件を中心に初の団交。会社は、業務管理・労務管理に不十分な点があったことを認めたが、具体的な不利益の回復については、「労災の申請が認められたら」と、判断は労基署任せ。近くUさんの件でも交渉の予定。
大阪ガス本体の子会社で(正確には大阪ガスグループの持ち株会社が株式100%保有)、グループ全体の総務部門である上、課長級以上の管理職はほぼ全員大阪ガス本体からの出向ということもあり、OGBC単独ではどうにもならない部分もある。すでに一度、ガス本体に質問状を送り付けたが「別会社だ」として事実上回答を拒否されているが、ガス本体への再度の公開質問状も含めて検討する。(木)

《中馬病院》使用者責任を追及し補償も要求
レントゲン技師→現在院内事務局勤務。上司のレントゲン技師長が、脳梗塞を発症したのはK組合員の仕事のミスが原因だとして、慰謝料の支払いと退職を求めて裁判を起こした。裁判所は何度も技師長に組合員の不法行為を証明する証拠の提出を求めたが、十分な証拠が示されずにいた。そんななか、1月後半に期日を控えていたところ突然、技師長の代理人弁護士が死去したため、裁判を取り下げるとの連絡が入った。代理人が亡くなられたのは残念なことだが、裁判自体は継続できたはずで、事実上どうにもならなくなった末の取り下げと言える。
K組合員は前任の技師長との関係は良好だったため、仕事上のミスも目立っていなかったが、いまの技師長のパワハラ対応に委縮するようになり、ミスを重ねるようになった。病院にも対応を求めていたが、真剣に取り合ってもらえず、パワハラがエスカレートした結果、部下への脅迫を目的とした訴訟にまで発展したのだ。裁判取り下げを受け、団交申し入れを行う。使用者責任を果たさずにきた病院の対応を追及し、組合員の被った損害の補償を要求していく。(高)

《ミランダワークス(Kさん)》公然化し労働保険加入他を要求
大手建設・公共事業コンサル企業の社員が起業したベンチャー企業。ほぼ雇用なのに形式上は業務委託契約で働かされたKさんが、2020年秋にコロナ罹患、その後後遺症もあって仕事ができない状態が続いているが、雇用保険も労災も、もちろん被用者健康保険も加入していないため、何の救済もない状態。
ハローワークに確認申請したが、「グレーだ」としながらも職権加入まではできない、との判断。一方で「事業者が望むなら加入できる。何の問題もない」とも言っているので、公然化し、この際なのでフルセット(労働保険=雇保+労災、社会保険=被用者健康保険+厚生年金)での加入、一方的に引き下げられた「委託料」(という名目での給与)の差額の支払いを求め、2月26日に初団交の予定。(木)

《グリーンリッチホテル》ハラスメント認めるも職場復帰は拒否
グループを含めると約30軒のホテルを経営する会社(本社=福岡県)。大阪国際空港前で働いていたIさんがハラスメントで退職に追い込まれた件。およそ週1ペースでホテル前抗議宣伝やホテル労働者向けファックス送信などを続けている。
2月17日、ひさしぶりで3回目となる団体交渉。会社はハラスメントの事実を認め、Iさんに一応の謝罪もし、不十分だが加害者を処分した。となれば、理屈から言って、当方要求の①代表取締役による書面による正式な謝罪、②Iさんの復職、を受け入れるのが筋だが、会社は相変わらず小学生並みの下らない言い訳を繰り返して要求を拒否している。持ち帰って改めての回答を求めた。回答によっては抗議行動を強化するので、ぜひ応援をお願いします。(木)

《データリレーションマーケティング》職場復帰に向け粘り強く交渉継続
お客さんとの電話対応に因縁を付けられ、他部署に出向させられたHさん。この間会社側と文書のやり取りで事実確認を進めているが、会社側は応じるような振りをして不誠実な回答を繰り返している。会社側の主張は矛盾していることが多々あるので、Hさんの職場復帰のために粘り強く交渉を続けていく。(鈴)

【支部報告】

◇高槻支部
このところマスコミは北京五輪の報道ばかりでいいかげんうんざりする。政治・経済はどこへ行ったのか、この国はもう壊れてしまったのかとため息が出る。そんな中での支部会議だったが、深刻な日本の「賃下げ」問題を資料を基に学習した。ここ数十年殆どの欧米諸国は賃上げが右肩上がりだが、日本だけはずっと賃下げの下降線をたどっている。どの国も潤っているわけではなく物価上昇などに並行して賃金も上がるが、日本では生活環境がどう変わっても賃上げにはつながらない。労働組合の力が弱いのが決定的なのかも知れないが、労働力は商品だから安く叩かれて当り前、引換えなしに労働報酬の上乗せを求めるのは身勝手という社会的圧力も感じる。マスコミも五輪競技などを安易に垂れ流すのではなく、こうした身近で深刻な問題を大きく取り上げてほしいものだ。(小)

◇豊能支部
このところ新規の相談は少なく、あったとしてもメールやLINEのやり取りだけで終わっています。その一方で現在進行中の争議は諦めの悪い会社が多く、交渉が長期化しています。会社がアンポンタンということと同時に、会社側が立ててくる弁護士にも悪質な奴が多いというのも交渉の長期化の一因となっています。雇われて働く側にとっては辛い時代です。労働組合の力は数です! それぞれがそれぞれのやり方で、今闘っている仲間を支えましょう。(鈴)

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